さて、品川一帯の水路を追ってきましたが、最後に目黒川の流路の跡を探したいと思います。
7.目黒川 ⇐
目黒川は大正15年から昭和15年にかけての改修工事によって拡幅と直線化が行われましたが、それまでは幅も狭く、蛇行する川だったそうです。目黒川は上流よりも河口付近のほうが川底が浅かった(1mも!)ようで、ちょっとしたことで溢れやすいし、平地を流れていたので上流側で水を田んぼに引き入れるのも難しかったのだそうです。
改修工事の記念碑が旧東海道沿いの荏原神社のそばに建っています。
改修前の目黒川は次の古い地図のように蛇行していて、特に河口付近は洲崎(すさき)と呼ばれる大きな砂州に沿って北に曲がって東京湾に流れ出ていました。右下の急カーブが印象的です。
現在の地図に重ねると次のようなルートで流れていたようです。
この流れの痕跡を探してみます。
スタートは第一京浜の西側を少し行ったところです。
川の上に京急線が見えます。橋のところは第一京浜です。正面に河岸が一部低くなっているところがありますが、この辺りを通って流れていたようです。
この白いビル(昔の品川区役所)の向こう側が第一京浜と山手通りの交差点です。
交差点を斜めに横切って、向こう側のビルの間あたりを流れていったようです。細かく書くと、山手通りの向こう側の左に隣り合うように入っていく2本の路地があって、その2本は右に平行に扇状にカーブしていきます。手前の路地が目黒川の北岸にあった道で奥の路地(内側をカーブしている路地)が目黒川の流れの跡だと推測しています。
このビルの間の手前の路地を進むと、いかにも河岸の道の跡っぽく左右に曲がりくねっています。
小さい駐車場があります。手前の段差が目黒川の北岸の名残りなのだと思います。
もう1本奥の路地もゆるく右にカーブしていきます。足元の妙な段差が特徴的です。
このすぐ先の左側に「子育地蔵」というお地蔵様がいます。このお地蔵様は路地に対して背を向けていますがそばの看板に「このお地蔵様のすぐ後ろを目黒川が流れていた」というようなことが書かれているので、話は合っているようです。
図にするとこんな感じです。
ゆるく右にカーブしながら進むと山手通りに戻ってきます。山手通りのちょうど反対側に路地の続きが見えています。
山手通りの向こう側は駐車場になっていて、川の跡を感じさせます。写真の右のほうの木々は荏原神社のもので、今の目黒川はその荏原神社の向こう側を流れています。目黒川は工事によって荏原神社の北側から南側に移動したとも言えます。
この駐車場の左端に沿って路地があるので、そこへ行って駐車場のほうを眺めると、目黒川の南岸らしき段差が観察できます。
またこの路地の一番奥には小さな階段があります。こちらは目黒川の北岸の名残りのように思われます。
この辺りを図にすると次のような感じになります。
これだと旧目黒川はすごく細い幅で流れていたことになりそうですが、実際昔の工事前の目黒川の様子を撮った写真を見ると細い川だったことが分かります。
さて、荏原神社の向こう側へ行くと参道の横はこんな感じになっています。この右側が現在の目黒川です。旧目黒川はこの辺りを通って現目黒川の位置に戻ってきていたと思うのですが、左側の青いフェンスが怪しげです。この辺りは川の跡で地盤が弱いので入らないでね、とでも言いたげです。ほぼ妄想ですが。
ここからは少しだけ現目黒川と同じところを流れ、八ツ山通りのところで北向きに急カーブしていました。というか、八ツ山通り自体が旧目黒川を埋めた跡なんですね。工事の様子は昔の写真に残っています。
八ツ山通りで北から現目黒川の方を眺めると次のような様子です。
正面は目黒川にかかる新品川橋です。その右に大きな銀杏の木が見えますが、他の資料によればこの新品川橋の下、銀杏の木の左側を手前に向かって旧目黒川が流れていたようです。昭和30年代の写真にもこの銀杏は写っています。かなりの急カーブで流れていたんですね。
八ツ山通りを北に進むとすぐに山手通りとの交差点に出ますが、その交差点のほんのちょっと手前に横断歩道があります。
左が現目黒川、右が山手通りとの交差点です。交差点とほんのちょっとしか離れていないのでとても中途半端なところにある横断歩道だと感じますが、実はこの写真の手前から奥に向かって目黒川を横断する道があって、品川神社まで延びていたようなんです。そしてこの横断歩道は「大正橋」という橋の名残りなんですね。
交差点のそばに妙な植木スペースがあります。
山手通りと交差してそのまま進みます。左側に妙な形の歩道が現れます。埋め立てて道路にしたときに河岸の土地の境界を整理しきれなかったんでしょうか。
少し先では歩道の外側にも妙なスペースがあります。
この写真の正面に八ツ山通りを斜めに横切る歩道橋が写っています。この歩道橋は小学校の目の前にあるので存在自体は不自然ではないですが、旧目黒川でここに架かっていた品海橋(ひんかいばし)の跡のようです。当時の写真を見ると、歩道橋の斜めの具合も品海橋そのままです。
横からみるとこんな感じです。
ちなみに「シン・ゴジラ」という映画で1回目に上陸したゴジラが倒れ込んだのがこの歩道橋の手前でした(笑)。
歩道橋を過ぎると右側に船溜まりがあります。船溜まりを北から眺めてみました。
この辺りは手前の東京湾に向かって河口が広くなっていったところで、右のほうの半分だけ八ツ山通りとして埋め立てたようです。
最後に
というわけで、目黒川の排水口をスタートしてぐるっと品川区内を水路に沿って一周し(実際は何周もした…)、また目黒川に戻ってきて昔の河口から東京湾に出ることができました。
こうやって写真を整理しているだけでなんだかすごく長い旅行を終えて帰ってきたみたいな不思議な気分です。また機会があったら別の散策テーマを決めてあちこちうろうろしてみたいなと思います。