水路の痕跡の探し方

 ここでは、無くなってしまった昔の水路の痕跡を今の風景の中からどうやって探すのか、そのコツ(と勝手に思っているもの)を書いてみたいと思います。

地図で探す

 まずは地図です。探索したい地域を何となく決めたら、ネット上の地図を思いっきり拡大表示して適当にスクロールしながら怪しい形の道路や建物のすきまを探します。具体的には書かないですが細かい路地を表示してくれるタイプの地図サイトをよく使います。

 「怪しい形」というのは、蛇行しているとか、同じ間隔で平行に並んでいるとか、行き止まりであるとか、です。平行に並んでいる道路の場合、どちらか一方が道でもう一方が水路の跡だったりします。また、水路の上がそのまま全部道路になるわけではなく、横切るように建物ができたりして行き止まりの路地になることも多いので注目ポイントです。

 道路でなくても地図を良く見ると一連の建物の間に長く続くすきまがあることがあり、これも道路と同じように注目します。たまに地図には何も描かれていなくても行ってみると通り抜けられる通路になっていたりします。

 もちろん昔の地図(いわゆる古地図)も参考になります。よく使うのは「歴史的農業環境閲覧システム(明治時代)」や「東京府下大井町全図(大正時代)」です。大正時代のほうの地図は道路の形も今と近くて水路もたくさん描かれているので、よくそこから探索地域を絞り込んだりします。

 でも古い地図って(怒られちゃいそうですが)細かいところをよく間違えているような気がするんですよね。明治あたりからの地図は測量したものだそうですから道路などの位置は正確なのだと思うのですが、道路以外はどうかというと、これは描かれていないとおかしいだろと思うようなものがある地図では描かれているのに同時期の別の地図には描かれていない、というようなことはよくあります。だからあまり古い地図に依存しすぎないように、他の情報もバランスよく取り入れていこうと思います。個人宅や細い水路みたいなそこに行ってみないと正確な位置が分からない細かいもの(「地物」と呼ぶらしい)はどうやって調べて地図に書き込んだのか興味がわきます。「昔の地図の作り方」みたいな資料があったら読んでみたいです。

注目すべき特徴的な風景

 次に現地に行ってウロウロしながら風景の中に水路の跡を探します。特に注目すべきだと思うのは「横断歩道/歩道橋」「神社の後ろ」「水音のするマンホール」「小さい公園」「広い歩道」「大きい木」です。

 妙な位置(だれが使うんだ?と思うような位置)にある横断歩道/歩道橋は昔の橋の位置に作られたものであることが多いように思います。

 水路のそばに神社が建てられていることも多いと思いますが、さらに言えば「神社は水路と川べりの道の間に道のほうを向いて建てられることが多い」ということが言えるんじゃないかと思うので、神社を見つけたらその後ろに水路があったんじゃないか?とまず考えてみるようにしています。実際「ここは水路の跡だ」と思える道路のそばに背を向けて建っている神社をよく見かけます。

 また、水路の跡は地盤が弱くて建物を建てるのに向いていないという理由でもあるのか、公園歩道として利用したり、川べりの大木がそのまま街路樹として残っている傾向があるように思います。学校などの公共施設になっている傾向も感じます。

池の跡

 特に池の跡は注目すべきです。人口の用水が整備される前は田んぼ近くの斜面などから湧いていた水を池にためて(溜池にして)、そこからの水を田んぼに引いていたそうです。その後用水を作るときは溜池の横を流れるように作って古い水路と新しい水路を連結するような形にすることが多かったそうです(そしてその後溜池部分は田んぼに転用した)。だから池の跡の横には用水の跡もあるかもしれないということになります。

 戸越公園の池が典型的なケースです。戸越公園の池のところに湧水があってそれが川になって流れて出ていたところに、後年西側から品川用水が作られて池に流れ込むようになったのだそうです。

土地の高低差

 これも勝手な思い込みかもしれませんが、地図上に等高線を引くと分かる高低差は昔からそれほど変化していないという印象が強いです。だから「水は高いほうから低いほうへ流れる」とか「用水路はできるだけ高いところを通るように作る」という法則(?)を等高線に照らせば「ここを流れていたんじゃないか?」と推測する根拠になると思います。

 よく使うのは「国土地理院電子国土Web」です。ここでは地図をズームインした状態で50cmごとに指定した色で等高線の間を塗りつぶすことができるので、細かく水路の形を推測したいときに便利です。 

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